どこでもない都

佐藤文香

それが支流であったとしても
この流域での営みには
いちいち橋が必要である
鋏でひらいた桔梗数輪と
蔓の植物のこまめな花
茄子畑に咲くオクラの花
 
通学路同士合流するところ
のろく歩いているのに
秋風は昼の船出のように
扁平の声を胸椎におさめ
くらがりで毛並を整えて
歩くとは蹄に思考させること
 
辛子色のトラックに
裏向きに乗せられた猫車
貧しい土が乾かずにある
自分の名前のスナックと
刻まれた布を扱うおばあさん
話すのを善だとは思わない
 
どこでもない都
反り腰の浪人たちが
芋を抱えて集まってくる
 
 
 
旅空を暮しの空へ秋の風
 
両足は我を運びぬ古都の秋
 
深草は川面ぬめらとございます
 
 
雨の日に雨の絵画を見て帰る鳥居の貫のやうなあなたと
 
 
まはらない水車にふれてゐる楓あをさの透かす夕暮にゐた