『左川ちか全詩集』より

左川ちか

午   後

花びらの如く降る。
重い重量にうたれて昆虫は木陰をおりる。
檣壁に集まるもの、微風のうしろ、日射が波が響をころす。
骨骼が白い花をのせる。
思念に遮られて魚が断崖をのぼる。





暗 い 歌

咲き揃つた新しいカアペツトの上を
二匹の驢馬がトロツコを押して行く
静かに ゆつくりと
奢れる花びらが燃えてゐる道で
シルクの羽は花粉に染まり
彼女の爪先がふれる處は
白い虹がゑがかれる。





海 の 天 使

揺籃はごんごん鳴つてゐる
しぶきがまひあがり
羽毛を掻きむしつたやうだ
眠れるものの帰りを待つ
音楽が明るい時刻を知らせる
私は大声をだし訴へようとし
波はあとから消してしまふ

私は海へ捨てられた